この曲、ドラムでか!
ファントムシータの「キミと××××したいだけ」を聴いたとき、最初にそう思いました。
特にスネアがデカい。乾いた「パシッ」という音ではなく、残響を伴った「ドカン」という音が、曲の正面から飛んできます。
ここまでスネアを前へ出していいんだ。
この曲を聴いて、ミックスに対する固定観念を一つ壊されました。
Adoさんを聴きまくっていたら、ファントムシータにハマった
最近、Adoさんを聴きまくっています。
その流れで、Adoさんがプロデュースしているファントムシータを聴いてみたところ、すっかりハマってしまいました。
ファントムシータは、レトロホラーをコンセプトにしたアイドルです。現代のアイドルが「蝶」なら、自分たちはアイドル業界における異端の「蛾」。設定の時点ですでに尖っています。
個人的には、最先端のJ-POPという印象です。本当に「今までこんな曲を聴いたことがない」と思わせる曲がたくさんあります。
その中でも「キミと××××したいだけ」は、ボカロPのきくおさんが作詞・作曲・編曲を手がけた曲です。
第一印象は「ドラムでか!」
この曲は、ドラムがとにかくデカいです。
なかでも印象に残るのがスネア。残響を大きくまとった「ドカン」という音が鳴るたびに、曲の空気そのものが揺れるように感じます。
スネアはリズムを支えるだけの存在ではありません。この曲を一度聴いただけで覚えてしまう、主役級の音になっています。
ミックスでは、それぞれの音をきれいに聞かせることを考えがちです。しかし、この曲から最初に受け取るのは、整然としたバランスよりも強烈な印象です。
「ドラムでか!」と思わせるほど大きいからこそ、忘れられない。
ボーカルとスネアが前に出ている
前に出ているのは、スネアだけではありません。ボーカルもしっかりと曲の正面にいます。
ボーカルが歌の感情を伝え、そのすぐ近くでスネアが「ドカン」と鳴る。ボーカルとスネアの二つが前面に立ち、曲を引っ張っていくような聞こえ方です。
歌を埋もれさせず、それでもスネアの強烈さを弱めない。この二つが同時に前へ出ることで、緊張感のある音像が生まれています。
ベースを前へ出さないことで、冷たい印象が生まれる
その一方で、ベースはあまり前へ出てきません。
低音でコードの土台をはっきり支えるというより、ボーカルとスネアの印象を優先しているように聞こえます。そのため、コード感をすぐにつかみにくく、曲全体に少し冷たく無機質な空気があります。
だが、そこがクールでかっこいい。
すべてのパートを同じように聞かせないからこそ、前へ出した音の存在感がさらに強くなっています。
ミックスは、すべての音を平等に聞かせる作業ではない
ミックスをしていると、「ボーカルはこのくらい」「ドラムはこの位置」「ベースもしっかり聞こえるように」と、無意識に正解らしいバランスへ寄せたくなります。
もちろん、各パートを聞き取りやすく整えることも大切です。
しかし、「キミと××××したいだけ」を聴くと、すべての音を平等に聞かせることだけがミックスではないと分かります。
何を一番印象に残したいのか。そのために、どの音を前へ出し、どの音を奥へ置くのか。
この曲では、その判断がはっきりしています。ボーカルとスネアを前へ出し、特にスネアは残響ごと「ドカン」と鳴らす。ベースは前へ出しすぎず、冷たく尖った空気を残す。
「こういうのもありなんだ!」と思いました。
「こうあるべき」を捨てると、曲の顔が見えてくる
整ったミックスと、印象に残るミックスは同じではありません。
全体をきれいにまとめることばかり考えると、その曲で本当に聞かせたかったものまで小さくしてしまうことがあります。
スネアをもっとデカくしたいなら、デカくしていい。ボーカルと同じくらい前へ出したいなら、出していい。その選択によって曲の魅力が強くなるなら、それがその曲の正解です。
ファントムシータは、コンセプトだけでなくミックスも尖っています。
「キミと××××したいだけ」を聴いて最初に浮かんだ「ドラムでか!」という感想。その一言が残った時点で、このミックスは強い。
ミックスとは、すべてを無難に整える作業ではありません。
その曲の顔になる音を決め、思い切って前へ出す作業でもあります。